先日、アイススケートに行った。
人生で初めてのアイススケートだ。
子どものころに
ローラーブレードはやったことがある。
あの、かかとにブレーキがついていて、
調子に乗ると確実に転ぶやつ。
だから正直、
「まあ似たようなものだろう」
くらいの気持ちでいた。
とはいえ、初めては初めて。
ちゃんと滑れるのか。
そもそも立てるのか。
30代の身体は、
氷という未知の床に耐えられるのか。
若干の緊張を抱えながら、
レンタルのスケートシューズを履き、
ついにリンクへ。
恐る恐る、氷の上に足を置く。
...立てる。
しかも、思ったより安定している。
ツルッといく感じもない。
「え、もしかして、もう滑れる?」
念のため最初は
リンクの周りの柵につかまりながら、
ゆっくり一周。
全然いける。
普通に進めるし、
転びそうな気配もない。
これは、もしや。
柵から手を離してみる。
いける。
普通に、スーッと進む。
むしろ気持ちいい。
「...余裕じゃない?」
スイスイ進む。
思ってたより速い。
なんか、それっぽい。
頭の中で、
いらない考えが浮かび始める。
これは、センスなのでは?
とんでもない才能なのか?
もし小さいころからやってたら、
今ごろ
「氷上の妖精」
などと呼ばれ
世間の注目を
浴びていたのではないか。
そんな、
一切根拠のない自信を携えながら、
ビュンビュン滑っていた、その瞬間。
ステーン!!!
気づいたら、
視界いっぱいに天井。
状況を理解するまで、
2秒くらいかかった。
見事なまでの大転倒。
リンクのど真ん中で、
しっかり尻もち。
完全に、
「初心者が調子に乗った結果」
である。
現実が痛い。
恥ずかしい。
さっきまで、
氷上の妖精を名乗っていた男が、
今は氷の上で寝転んでいる。
妖精、地に落ちるのが早すぎる。
それより何より、
お尻が痛い。
尋常じゃない痛さ。
これはもう、
間違いなく割れている。
妖精のお尻は、
4つに割れてしまった。
その後、
何事もなかった顔で立ち上がり、
ゆっくりリンクを離れる。
周りの人たちは、
優しいのか、冷たいのか、
誰も見ていないふりを
してくれていた。
ありがたい。
氷上の妖精(自称)は、
静かに、
そして速やかに帰路についた。
その日の夜、
なんとなくテレビで
フィギュアスケートを見た。
今までなら、
「すごいな〜」
くらいの
感想だったはずなのに。
この日は違った。
「え、滑れすぎじゃない?」
「なんで転ばへんの?」
「同じ氷やんな?」
尊敬というより、
もはや若干引いている。
そしてこの時の私は、
まだ知らなかった。
尻もちの痛みよりも、
もっと恐ろしい存在を。
翌日、
とんでもない
筋肉痛がやってきた。
太もも。
お尻。
よくわからない筋肉。
階段を降りるたび、
「アイススケート」
という文字が頭に浮かぶ。
氷上の妖精は、
現実を知った。
